安全文化の評価指標
安全文化診断の目的は、次の3項目に集約できます。
- 一定程度の安全管理の仕組みが導入されている事業所において、どの程度従業員が「納得して」安全管理に取り組んでいるかを可視化する
- 複数部署・複数事業所の「ばらつき」を可視化することで、会社の仕組みとしてコントロールできている部分とできていない部分を仕分ける
- 安全管理や組織的な取り組みについて、理解・納得・実践が進んでいる分野とそうでない分野を明確にし、安全への取り組みを改善するきっかけとする
この3項目を実現するための具体的な診断・分析方法を説明します。
アンケートは、110問の設問から構成され、8つの大項目(8軸)に分類されています。
各設問に対して、「1.全く当てはまらない」「2.あまり当てはまらない」「3.どちらともいえない/わからない」「4.少し当てはまる」「5.非常によく当てはまる」のリッカート尺度に基づく5件法で回答を行います。
この結果に対して事業所の階層を構成する部署ごとに各設問の平均値とばらつきを算出します。また、新潟大学が持つ基準データを使用して診断対象事業所に合った基準と比較を行い、改善点や目標を見い出します。同時に主成分分析を行い研究結果をもとに2次元に集約します。
これらより他部門、他部署あるいは数年前の過去の結果からの変化などを可視化して、目標設定や改善の効果を評価する指標にします。
1.安全文化診断設問の例
設問は、事業所に関わる基本的事項から応用的な内容を網羅的にカバーしています。また、安全活動のみならず、組織・職場の健全性に関しても問いかける内容になっています。

2.診断結果の例
診断結果のイメージはこちらです。上段横方向に事業所の組織が記載され、その下に主成分分析の結果である第1主成分、第2主成分が示されます。次に8軸の各項目の平均点と110問の各設問ごとの平均点が記載されています。また、この平均点は、ウェルチのt検定を用いてベンチマーク対象の基準点との有意差分析が行われ色で有意差を表したデータを提供いたします。この分析は、部門、部署のみならず、年齢、経験年数、職位などの属性別の評価結果も併せてご提供いたします。

さらに、第1主成分(軸名:安全文化総合指標)と第2主成分(軸名:安全方針)を2次元にプロットしたグラフを提供いたします。各部署の相対的な位置関係の把握が可能な部署ごとの散布図と属性別(年齢・職位など)の散布図の2種類を提供いたします。


部門・部署別の分布と変化から分かることは、次の2点です。
- 「現場が強い」といっても中身は多様で第一線の製造現場だけでなく、事業所内の他の役割の部門にも着目する必要があり、「どの部門が、従業員の安全の要なのか」が、わかっていないことに気付ける
- そもそも、組織の変化は徐々に起きていることが多く、変化しているかどうかは、その場に従事する本人自身が一番気づきにくいため数年おきのスナップショットの定点観測の重要性に気付ける
さらに、安全文化診断が測るものから分かる付随的な事柄は、次の2点です。
- 「何かがおかしい」「事故が起こりそう」という点には現場は気付いていることが多く、「どうおかしいか」「なぜ不安を感じるか」を言語化することは難しい(気付いている≠言語化できる)
- 一般的に業務で行うアンケートには高めの点を答える傾向があるが、不安を抱えている状態では気持ちよく高い点を付けるとは出来ない
つまり、安全文化診断がもたらすものは、診断自体は、個々の従業員が回答した結果の集合体なので「なぜこのような結果になったか」という問いから議論が始められ、個々の担当者から見えない組織全体に関わる根深い問題である「不安をもたらすもの」の正体を組織的に究明するための「手がかり」かりです。
安全文化醸成のアプローチ
安全文化診断の結果の活用にあたって推奨される改善活動の進め方をご紹介いたします。
最初に低得点・高得点の要因分析を実施します。次に見るべき設問を絞り込みます。それは、次の3種類の設問です。
- 組織にとって「当たり前」である事柄(ルールや日常の指導の中で重視している項目)に関連する設問
- 事業所や部署で行っている活動に関連する設問
- 事業所幹部や管理職として重点的に確認したい設問
110問すべてを最初から分析するのは容易ではないので軸とする設問を最初に選定し、ほかの設問については背景となる要因を探るときに、これら軸とした設問と関連させて分析を実施します。
また、設問をテーマ別にグループ化して分析することも有効です。
設問の内容ごとに、中心となって分析を推進・取りまとめる担当者を決めることです。(全社共通課題の分析担当者、事業所共通課題の分析担当者、各部署の分析担当者)
次に高得点だったとしても、「その理由」が論理的に整理できなければ、「強み」として将来にわたって維持することはできません。他部署にベストプラクティスとして水平展開するためにも、強みの源泉を正確に理解・整理する必要があります。
一方、低得点だったとしても「その部署の怠慢」ではなく、長期にわたる環境上の課題、資源不足、支援不足の結果であると解釈することもできます。
まず、職場での対話・インタビューの実施をお勧めいたします。高得点、低得点となった背景について職場での対話・インタビューを通じて理解を深め、設問のうち特に高得点だったもの、低得点だったものを具体的に取り上げ、問いかけを行うことが有効です。高得点だったものについては、この問いかけのプロセスで具体的な理由が出てこない、それを支える仕組みが見えない場合は、注意を要し、現時点では良いかもしれませんが、長期的に維持が難しい強みの可能性があります。
現在、事業所が実施している施策,取り組みや活動に関連する設問の結果を確認し、職制が日常感じている評価と一致しているか否かを確認し、改善すべき項目と目論見通りの項目を明確にするプロセスに入ります。力を入れているはずの活動で低得点の場合は、注意を要します。
改善目標・戦略・戦術の策定は、会社(全社)、事業所、各部署(職場)、それぞれのレベルで課題を整理し実施可能なところまで落とし込みます。複数の事業所で類似した課題がある場合は、会社(全社)で、同一事業所の複数部署で類似した課題がある場合は、事業所レベルで対策を策定します。複数の事業所,複数の部署にまたがる問題は個々の事業所・部署に丸投げしてしまうと,課題を解決できず安全文化の劣化にも繋がりますので、全社及び事業所を統括する部門・部署は、事業所間及び事業所の個々の部署の課題の解決、強みの維持・強化に集中できる環境作りに力を注ぎましょう。
優先順位,評価基準の策定は重要です。資源は有限であり、あれもこれもやろうとすると全てが手抜きになりやすく、摘出された課題のうち、「波及効果の大きいもの」、「成果の果実が見えやすく動機付けにつながりやすいもの」、「多くの従業員の不安・不満の解消につながるもの」を中心に優先的に実施しましょう。また、安全活動は成果が見えにくく、一度始めるとやめにくいため,「事前」に上手く進んでいるかどうかを判断する基準を決めておきましょう。
安全活動を推進するプロセスと到達点を考えるために評価基準などを使い、どの程度の改善を目指すのか、どのような戦略・戦術を採用するかを決めます。安全文化の場合、より良い職場作り、つまり円滑に業務が進む風通しの良い職場作りを中心に据え、安全と他の経営目標を同時に改善できるよう進める事が資源の確保も実施しやすいと思われます。
最後に、改善実施担当者を決め、資源配分をして改善活動を実施します。
- 速報でかまわないので可能な限り早めに回答者へフィードバックを実施する
- フィードバックとセットで、早めに効果がでる施策を実施することで、変革の機運を高める
- それぞれの階層レベルの課題について、適切な能力を持った人材や担当部署をアサインする
- 業務プロセス系の改善は、事務系(管理部門)も交えて検討した方が良い結果を生む場合がある
言うまでもなく、安全文化診断の結果は、改善のための地図です。組織内での対話と現状の理解を始めるきっかけに活用しましょう。安全文化診断で算出された数字をもとに対話を行うことで、対話による思いの表出と対話内容のポイントを絞った議論が可能になります。数字そのものではなく、「なぜその数字に収斂したのか」を考えることで、組織の取り組みがどのように組織内で受け止められているかを理解することができます。


